メメント大盛り

読んだ本の感想など。キリンジと落語が好きです。

スマホを捨てよ、寄席へ行こう/瀧川鯉昇「鯉のぼりの御利益」

2020年3冊目。瀧川鯉昇「鯉のぼりの御利益 ふたりの師匠に導かれた芸道」

鯉のぼりの御利益―ふたりの師匠に導かれた芸道 (東京かわら版新書)
 

噺家瀧川鯉昇の自伝。静岡の片田舎で貧乏ながらものびのび育ち、明大農学部卒業後は八代目小柳枝に弟子入り。しかし、小柳枝は破滅型の芸人だったーーー色々な縁や境遇に揉まれながらも芸を磨き、合間にお見合い80回。噺、落語に対しての熱い芸論もありの、鯉昇フアンは是非読んでおきたい一冊。

鯉昇師匠がねえ、好きなんですよ。どこか飄飄としていて、なんだか面立ちからシュールな雰囲気があって、マクラ(本筋に入る前の雑談みたいなもの)が面白くって、それでいてしっかり噺を聴かせてくれる。あと、私広島東洋カープのファンだから「鯉が昇る」なんて縁起が良い名前で最高!!!そんなことを恋人にへらへら話していたら、クリスマスプレゼントとして贈ってくれました。完全に予想の斜め上、不意打ち。脳内にサンタ帽を被る満面の笑みの鯉昇師匠が浮かんできて、めちゃくちゃにウケてしまった。師匠、サンタ帽似合うじゃないの…

閑話休題

噺家さんの生活やなり方って、本当にひとりひとりエピソードがあってWikipediaとか漁りだすともう何時間も平気で時間が溶ける。鯉昇師匠のエピソードもざっくりはWikipediaで知っていたが、本人の自叙伝となればこれまた別格。「自分では普通だと思っていたが、人様に話すと驚かれる」という幼少期を過ごしたり、鯉昇師匠の芸が培われた土壌を垣間見れた気がします。

小柳枝師匠、柳昇師匠のそれぞれのエピソードや芸論も興味深かった。芸論に関しては柳昇師匠の方がより深く掘り下げられていた。落語という文化を絶やさないための思い、革新を恐れない姿勢は心底痺れる。

終盤の「柑橘系の枠があって、その中の品種改良でみかんや伊予柑、グレープフルーツが育つ一門もあれば、ひとつの畑から、いちごからトマトから幅広く採れる一門があったっていい。」という文章はすごく納得が行った。いろんな色と味をもった芸人さんが活躍出来ますように。

あとがきでしっかりオチを付けてきたのは流石でした。ウワーッ、モーレツに寄席に行きたいぞ!寄席は良いとこ一度はおいで…

あと、これは個人的な感想ですが、この本はあくまでも落語が好きな人向けに書かれていてちょっと不親切かも、と思ったりもしました。「前座」「マクラ」あたりは皆知っているかもしれないが、「ロセン」「タレ」なんかはどうだろう?ナウなヤングにも通じるものなのかしら。そのあたりの微妙な符牒に簡単な注釈がついていれば、落語に明るくない人にも勧めやすいのかも、と思ったり。(どちらも男女関係の単語なのでここに意味は記しません。)

鯉昇師匠の出囃子「鯉」、出囃子の中で一番好きだ。テンポにもよるけど勢いのある出囃子をひっさげて、あのどこかとぼけた表情の鯉昇師匠が高座に上がるのがたまらない。

https://youtu.be/njcObeVFUoc

 

年齢を重ねるごとに、縁ってすごいな〜としみじみしてしまう。それこそ鯉昇師匠がちりとてちんよろしく腐った豆腐を食べて高熱を出していなかったら圓遊師匠の元に行っていて、また別の色の噺家になっていただろう。そうしたら「瀧川鯉昇」という噺家は世に出てこず、私も名前が景気がいいやなどと適当な理由で好きになるきっかけを得ることもなかったかもしれない。

噺家さんに限らずだが、人間、いつか必ず死ぬ。ならば好きな人には会えるうちにバンバン会い、推しは推せるうちに推さねば損である。お互いが生きて健康な状態、さも当然のようにすごしているけどかなりすごいことだよな…なんて思ったりしたのでした。