まま、一献/杉浦日向子「杉浦日向子の食・道・楽」
江戸時代に造形の深い、杉浦日向子先生のエッセイ集。タイトルの通り「食」「道」「楽」の三つの章からなり、杉浦先生の食卓への風景の切り取り方や酒器と酒のエピソードが描かれる。途中途中に「箸休め」と称されたエッセイや短編小説が差し込まれ、そちらもまたベタつかず粋で良い。
「道」の章では十二か月それぞれの季節に合った酒器のエピソードがとりあげられる。冒頭に写真が掲載されているが、なるほどどれも味があって素敵。お酒を飲むことに対しても矜持があって美しいな。未だ気を抜くと悪酔してトイレに籠城する私とは雲泥の差である。ああ、杉浦日向子のような粋な女に進化したい。
とりわけ一番印象深かったのは、実兄であり、本文に使用された写真のカメラマンでもある鈴木雅也氏の解説だった。兄としての優しい目線と、愛をかんじられる文章。粋な絵と文章を生み出す杉浦先生にも葛藤があり、ああ本当に懸命に生きておられたのだと思ったのであった。
読みながら、杉浦日向子先生と杯を交わしながらとろとろと話をしている気分になったのでした。
エッセイの感想って難しいな…ともすれば「おもしろかったです」という小学生の感想になってしまう。文字数の制約なく「はい、自由に書いていいよ!」と言われたときの心許なさたるや…ま、好き勝手書き散らかせばよいか。